眼鏡堂書店

山形県東根市を中心に、一冊の本をみんなで読む課題図書形式の読書会を開催しています。 また、眼鏡堂店主による”もっと読まれてもよい本”をブログにて紹介しています。

【開催しました】眼鏡堂書店の読書会『ドグラ・マグラ』夢野久作

11/17(日)に、旧県庁前のPlayground Cafe BOXを会場に、夢野久作の『ドグラ・マグラ』を課題図書とした読書会を開催しました。

ドグラ・マグラ夢野久作


夢野久作の『ドグラ・マグラ』といえば、ミステリ四大奇書*1のひとつにして、「読むと発狂する小説」として有名な作品。幸いにして、参加者全員が精神に異常をきたすことなく参集できました!バンザイ!

加えて、眼鏡堂書店では「四大奇書総選挙」のような具合でTwitterFacebookにてアンケートを行ったのですが、総投票数はわずか7票。

そんな7票によって今回の読書会と至ったわけです。

 

主催者含め4名での開催となったのですが、初読が2名、既読が2名(夢野久作全集を購入した猛者も!)。

読んでみて、どう感じたのか?というところからスタート。

初読の方からの意見として、非常に読むのに苦戦した、と。特に後半(下巻)がよくわからなかったとのこと。しかし、別の方からは読みにくいと思ったら、思ったより読みやすかった、とも。ほかに「発狂する小説」と言われる割には、書いてある内容がまっとう、現代の精神医学を先取りしているのでは?とも。

既読の方からは、久しぶりに再読してみて、後半の新聞記事の連続がよかった、という感想を。

 

いずれにせよ思うのが、本作『ドグラ・マグラ』の刊行はなんと昭和10年!それほど前の作品にもかかわらず、ほとんど古さを感じないところ。

当時のエログロナンセンス全盛時に書かれたとはいえ、確かに読んでみると思いのほかまっとうな作品です。あの表紙とか、さまざまに手垢にまみれた感のあるエピソードによってキワモノ扱いされるものの、ひとつの小説として高い完成度と意欲的な技巧が凝らされており、個人的に国語の授業で取り上げてみてもいいのでは?と思っています。

半面、参加者全員をてこずらせたのは。本作の閉鎖性。

たった1日の出来事が、最初と最後で延々とループし続ける物語なので、とにかくどこから話せばいいかわからない。「あれを話そうとすると、前提としてアレに触れないわけにはいかないし、そうするとこのことにも説明しないといけないし……」といった具合で、本当にどこから話せばいいか大変難しい作品でした。

併せて、登場人物の全員が「信用できない語り手」なので、それが事実なのか、トリックなのかがわかりにくい。さらにややこしいのが、そのどちらともとれるという宙ぶらりん状態で話が展開。これもまた、本作が『一読ののち狂気に至る』所以かも。

眼鏡堂書店個人としては、上巻の「みんなが知ってるドグラ・マグラ」からの下巻「あなたの知らないドグラ・マグラ」は新鮮でした。「あれ?こんな話だったっけ?」というぐらつくような不安感は、なかなか味わえるものではありません。

そして、すべてにおいて一人称で話が進み、登場する資料等も客観的に語られるのではなく、主人公の視点で見ている・読んでいるという体なのも、改めての驚き。

作中の『脳髄論』にある「脳は考えるところにあらず」という箇所は、最近の脳科学において一定の論拠のあるものとして研究されています。その『脳髄論』において、細胞の一つ一つが思考を持っていて、それを人体全体に反映させる中継点としての鏡が脳髄である、という表現は、昭和10年という時代性を考えてもなかなかにモダンで先鋭的だなあ、と思いました。

何かが起こっておるが、何も起こっていない。そんな起きていながらも起きていない日々が延々とループし続ける。そのループの中で脳髄の鏡に光る胎児の夢や心理遺伝が折り重なるのが、この『ドグラ・マグラ』。

ぜひ、一読していただきたいものです。

読書会では言わなかったのですが、映画『バリゾーゴン』を思い出したり出さなかったり。

みんなのトラウマ『バリゾーゴン』

 

さて。

 

仕事上の繁忙期&その他もろもろが重なり、開催が困難だろうと判断しましたので、来月12月の読書会はお休み。

1月は課題図書を新田次郎の『八甲田山 死の彷徨』での開催予定です。

詳細は決定次第、お知らせしますので、少々待ちください。

 

最後に、内容の感想やリクエスト、記事を見て本を読みました、読み返しましたなどありましたらコメント欄に書き込んでいただけるとありがたいです。あと、もし気に入っていただけたなら、読者になっていただいたり、ツイッターのフォローや、#眼鏡堂書店をつけて記事を拡散してもらえると喜びます。以上、眼鏡堂書店でした。

 

【追記1】

今回会場をお貸しいただきましたPlayground Cafe BOXさまより、映画版『ドグラ・マグラ』のパンフレットをお貸しいただきました。88年の映画なのですが、堤清二率いるセゾングループ全盛期。安部公房スタジオをはじめ、映画や演劇界にじゃぶじゃぶお金をつぎ込むパトロンがいた時代は、今のせちがらい世の中を見るにつけ、うらやましくもあり。

映画版『ドグラ・マグラ』のパンフレット

【追記2】

ドグラ・マグラ研究家の梅乃木彬夫(うめのき あきお)さまより、Twitter上にて様々リアクションいただきました。お勧めいただいた『鬼滅の刃ドグラ・マグラ』もいずれチャレンジしようと思います。(というか、『鬼滅の刃』を全く知らない、と言い出しにくい雰囲気)

 

 

*1:夢野久作の『ドグラマグラのほかに、中井英夫『虚無への供物』、小栗虫太郎黒死館殺人事件竹本健治匣の中の失楽』がある。なお、ミステリ三大奇書と表記する場合は『匣の中の失楽』を除いた三作品とする。