眼鏡堂書店

山形県東根市を中心に、一冊の本をみんなで読む課題図書形式の読書会を開催しています。 また、眼鏡堂店主による”もっと読まれてもよい本”をブログにて紹介しています。

【お知らせ】4月以降の読書会の予定について

明け方の地震で起こされた眼鏡堂書店です。皆さん無事ですか?

眼鏡堂書店の如き積ん読者くらいになると枕元にうずたかく未読本を積むのです。(宗教的な儀式と思ってください)ゆえに地震は即、打撃へとつながります。そのため、地震の感知が研ぎ澄まされてきた気がするのは気のせいでしょうか?

気のせいですね。

すみません。

 

というわけで、4月以降の読書会のご案内です。

4月は主催者多忙につき、お休みです。

5月から開催していく予定です。日時場所等はまだ未定で、決まり次第お知らせいたしますので、少々お待ちください。

まずは5月からの読書会の課題図書について、先にお知らせいたします。

 

 

5月 飼育/大江健三郎

「難しそう」というイメージばかりが先行する大江文学ですが、芥川賞を受賞した本作をみんなで読んでみようと思います。大江は当時23歳、選考委員の絶賛(前回の候補時からベストセラー作家になったから芥川賞はあげなくてもいいんじゃないか?という意見まで出た)を受けた本作が、果たして今でも芥川賞を獲れるレベルなのか?改めて考えてみようと思います。

 

6月 高丘親王航海記/澁澤龍彦

眼鏡堂書店の読書会では22年の12月の課題図書でした。人が集まらず、惜しくも中止になりましたが。主人公の高丘親王の天竺を目指す、幻想的で夢幻的な旅の様子をみんなで読んでいきたいと思います。舞台となるのが主に東南アジアという、異色の舞台設定も、ぜひ読んでいただきたいと思っています。

 

7月 燃えつきた地図/安部公房

今年は、安部公房生誕100年!乗るしかない、このビッグウェーブに!というわけで、通称”失踪3部作”から本作を。失踪者を探す探偵が主人公。その男の足取りを追ううちに探偵も……。22年の9月に『方舟さくら丸』を課題図書にしていましたが中止。「キツかった。開催されなくてよかった」と泣き言を書いています。みなさん!眼鏡堂書店に再戦の機会をください!

 

 

以上が、5~7月の課題図書です。諸事情により変更などありましたら、FacebookTwitter(かたくなにXとは呼ばない)、そして当ブログにてお知らせします。

読書会にて、皆様とお会いできるのを楽しみにしております。

 

あと、「この課題図書はどうですか?」や「この課題図書の読書会が面白かったです」などの課題図書リクエストも教えてください。大いに参考にさせていただきます。

ちなみに、リクエストしたから参加しろ、というわけではないので、安心してください。

 

以上、眼鏡堂書店でした。

【出店しました】一箱古本市@山形

3/24(日)に、山形駅西口広場にて開催されました、一箱古本市@山形に出店してきました。

当日まで天気が崩れ気味でどうなるものやらと心配したのですが、当日は快晴!(でも、ちと寒い)

これは日頃の行いが良いせいでしょう。

誰の、とは言いませんが。

激安の殿堂★眼鏡堂書店 再び

今回は、眼鏡堂書店の愛娘(概念上の存在)であるガネたんを連れて行きました。

なぜかって?

「ウチの娘を見せびらかしたいからです!」(直球)

ディル・アン・グレイ薫モデル ガネーシャ(通称:ガネたん)

 

相も変わらず、今回もまた薄利多売の100円均一スタイル。

「いいんですか?100円で?」

とよく聞かれるのですが、いいんです。

「興味あるけどわざわざ買うのもねえ…」という人にお手軽なきっかけを、って感じです。本との出会いの場を提供しているつもり。

マッチングアプリみたいなもんですよ(適当)

 

とか言いつつ、個人的な目玉として、

をちまちまとやってみたのですが、結構好評。

十蘭作品をごそっとお買い上げいただいたのは大変驚きました。

 

おかげさまで、58冊の売り上げ。

皆様と本とのよりよい出会いに乾杯。

 

ホントなら会場をウロウロしていっぱい写真も撮りたかったのですが、少々体調が悪く(精神的にもあまり調子が良くなかった)、会場写真とかあまりありません。

それにしても楽しかったです。

 

薄利多売のスタイルで、「この作家のまずはこれを読め!」的な初心者に優しい入口づくりも面白いかもしれません。

あと、せっかくガネたんを連れて行ったので、電池式のアンプとエフェクターを用意して、本は全部バンドスコアとか音楽雑誌、試奏OK、とかいう「それは一箱古本市じゃねえだろ」的ななにかもしてみたいと思いました。間違いなく、主催者に「もう来るな。絶対だ」と怒られそうですが。

 

それにしても楽しかったです(大事なことなので2回言いました)

 

機会があれば、県外の一箱古本市も出てみたいと思ったところ。

その際は、どうかよろしくお願いいたします。

 

お買い上げいただきました皆様、お話しさせていただきました皆様、ガネたんを触ってくれた皆様、一箱店主の皆様、主催者の方々、大変ありがとうございました。

以上、眼鏡堂書店でした。

【開催しました】眼鏡堂書店の読書会『コリーニ事件』フェルディナント・フォン・シーラッハ

2月18日(日)さくらんぼ東根駅前のコーヒー屋おおもりにて、フェルディナント・フォン・シーラッハの『コリーニ事件』を課題図書とした読書会を開催しました。

季節は二月中旬にもかかわらず、あたりの景色はまるで4月のよう。

でも騙されるな!

まだ2月だぞ。

まだ2月だぞ。(※大切なことなので2回言いました)

2月とは思えない風景

というわけで、今回の課題図書は、フェルディナント・フォン・シーラッハの法廷サスペンス小説『コリーニ事件』。主催者含め3名での開催となりました。

コリーニ事件/フェルディナント・フォン・シーラッハ

作品のあらすじは、

新米弁護士のライネンは、ある殺人犯の国選弁護人になった。だが、その男に殺されたのはライネンの親友の祖父だったと判明する。知らずに引き受けたとはいえ、自分の祖父同然に思っていた人を殺した男を弁護しなければならない――。苦悩するライネンと、被害者遺族の依頼で裁判に臨む辣腕弁護士マッティンガーが法廷で繰り広げる緊迫の攻防戦。そこで明かされた事件の驚くべき背景とは。刑事事件弁護士の著者が描く圧巻の法廷劇、待望の文庫化!(Amazonより引用)

 

法とは何か?正義とは何か?そして戦後ドイツが抱える闇。戦争犯罪をどう裁くか?といったテーマが絡み合う眼鏡堂書店の読書会史上もっとも重い作品となりました。

参加者からは「黒い表紙は重い話」との名言が誕生しました。

刑事弁護士という著者の経歴からか、文章は客観的で非常にシャープ&ドライ。併せて、登場人物が少ないことも参加者からは好評でした。

また、200ページほどの短さから、

  • テーマが重いがシンプル
  • 充実感がある
  • 短いが濃い作品

などの感想が。

 

 

で。

 

ここから先は、ネタバレを含みます。

さすがにラストは伏せますが、ネタバレが嫌な方は『コリーニ事件』を読み終えてから、改めてどうぞ。

 

 

 

【以下ネタバレ含】

物語の発端は、主人公のライネンが殺人犯コリーニの国選弁護人に任命されたことから始まります。ちなみに、これが彼にとって弁護士としての最初の仕事。

そして、コリーニが殺した相手がハンス・マイヤー。

ライネンにとっては親代わりの恩人で、彼を殺した相手を弁護しなければならない、という葛藤に苦しみます。

一度はこの弁護をやめようかと思うライネンに、マイヤー側の弁護士であるマッティンガーは弁護士としての誠実さを優先しろ、と諭します。結果、ライネンはコリーニの弁護を決意しました。

誰に後ろ指をさされることのない尊敬を一身に集める善人ハンス・マイヤーは、なぜ殺されなくてはならなかったのか?それも相当な憎悪のもとで。

コリーニはそれについて黙して語らず、弁護は暗礁に乗り上げます。

そんな状態が一変するのは、ライネンが凶器のワルサーP38に注目したとき。

このワルサーからまるでカットが切り替わるように、連鎖的かつ映像的に色々なことが収斂していく様子はとてもドラマチックでした。

併せて、参加者の方から、このきっかけとなる弾丸のにおいや銃を手入れする空気感についての指摘がありました。その方が猟師ということもあり、たいへん新鮮な発見と驚きが得られました。

こういうところが、課題図書での読書会の面白さです。

 

そして明らかになる、ハンス・マイヤーの隠された過去。

ナチス親衛隊の一人として、コリーニの家族を殺害し処刑していたという事実。そのことへの復讐がコリーニの動機でした。ライネンが調べ上げた事実とコリーニの過去から、法廷での証言場面へ戻ってきたときの緊張感!

 

そして、いよいよ法廷でのライネンVSマッティンガーとなるわけですが、その構図を簡単に整理。

 

『ライネン』(社会的な正しさ)

ハンス・マイヤーの戦争犯罪を明らかにし、「社会的」にマイヤーを断罪する。

 

『マッティンガー』(法の正しさ)

あくまでもマイヤーは「この事件において」被害者であり、彼の戦争犯罪は公的に時効である。

 

マッティンガーはライネンにこう言います。

「わたしは法を信じている。きみは社会を信じている。最後にどちらに軍配が上がるか、見てみようじゃないか」

 

ライネンの弁論はマッティンガー側に大ダメージを与えるものの、家族を殺した相手への復讐が認められる、わけではなく……。

そこにマイヤーの戦争犯罪を公的に時効とした『ドレーア法』も絡み、結局はマイヤーの戦争犯罪を明らかにこそできたが、罪を問うことはできない結果に。

悪法でも法律である以上従わなければならない。悪法だからと言って法律を無視ししてよい理由にはならない。

このあたりのなんともおさまりの悪い感じは、いろんな意見が出そうです。個人的に、法学部の学生を集めて本作を読んでもらって、法律論からどう裁くべきなのか?というディスカッションも面白そうです。そもそもが、答えの出ない問なわけで。

最終的な裁判の結果がどうなったのかは一応伏せますが、この突き放すようなラストはちょっと意見が分かれるところ。

このモヤモヤする感じを、「霧散する感じ」と言語化してもらったのは、言いえて妙だと思いました。

そのラストの少し前、ライネンとコリーニとの会話、

「(前略)おれの国に、死者は復讐を望まない。望むのは生者だけ、という言葉がある。このところ毎日、収監房のなかでそのことを考えているんだ」

「含蓄のある言葉ですね」ライネンはいった。

「ああ、含蓄のある言葉さ」

このやりとりの「含蓄ある感じ」。これも参加者の方から指摘されたのですが、改めて読むとやはり重苦しいまでの含蓄にあふれています。

あわせて、ライネンが自分の身の回りに戦争にかかわる碑文等があふれていることに気づく箇所。そこにあった碑文に書かれているのが「狂気のみが支配するこの国」という『モアビート・ソネット』の一説。若い世代が思い描くことのできない戦争。それが日本だけでなくドイツもまた、どれほど語られてもなお語り継がれることのない何かであふれかえっているように感じました。

結果的に、ライネンだけでなく、マイヤーの孫であるヨハナもまた重い現実と向き合わなくてはならなくなりました。

「わたし、すべてを背負っていかないといけないかしら?」

「きみはきみにふさわしく生きればいいさ」

眼鏡堂書店はこの一節に、シーラッハ自身が祖父とどのように対峙していくのか?を垣間見た気がします。同時に、すべてのドイツ人がかつての戦争を踏まえたうえでどうすべきかのかも含めて。

あと、余談ですが、あとがきでシーラッハのクラスメイトがシュタウフェンベルクやリッベントロップ、シュペーアやリューニックといったナチの高官や軍人たちの孫が勢ぞろいしていて、「どんな学校だよ!」と三人でツッコミを入れたりもしました。

 

200ページという短い作品ながら、とにかく重厚。でも文体は非常にシャープでドライなので読みやすい。

ちなみに周辺から攻めることが大好きな眼鏡堂書店は、短編集『犯罪』『刑罰』も紹介しました。これら短編集を読んで、気に入った作品、イマイチだった作品を挙げながらディスカッションしていくのも面白そう。

お初な作家ではあったのですが、思った以上にドハマりしてしまい、楽しみな作家がまた一人増えたという印象。

とても楽しい読書会となりました。

 

ご参加いただいた皆さま、そして今回会場をお貸しいただきましたコーヒー屋おおもりのマスター&ママさん、大変ありがとうございました。

 

さて、次回以降の読書会のご案内です。事前のアナウンスと変更があります。

3月は、24日(日)に山形市で行われます一箱古本市@山形への出店&主催者多忙につき読書会はお休みします。

併せて4月も仕事の繁忙期等々が重なるため、読書会は一度白紙とします。

3月4月と予定していました課題図書をすでに読み、参加を検討なさっていた方がありましたら大変申し訳ありませんが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

5月以降についてはまた時期が迫り次第、アナウンスいたしますので少々お待ちください。

 

最後に、内容の感想やリクエスト、記事を見て本を読みました、読み返しましたなどありましたらコメント欄に書き込んでいただけるとありがたいです。あと、もし気に入っていただけたなら、読者になっていただいたり、ツイッターのフォローや、#眼鏡堂書店をつけて記事を拡散してもらえると喜びます。以上、眼鏡堂書店でした。

 

【追記1】

フェルディナント・フォン・シーラッハの祖父は、ナチス政権下で全国青少年指導者としてヒトラーユーゲントを指導・育成し、最終的にウィーン大管区指導者となったバルドゥール・フォン・シーラッハ。

彼については、リンク先の動画をどうぞ。

www.youtube.com

 

【追記2】

本作は2019年に映画化されていますが、ストーリーを見るとずいぶん原作と違う。

昨今話題のアレとは違って大枠で外していないとはいえ、ずいぶん登場人物が削られてる印象。

ja.wikipedia.org

【開催のお知らせ】コリーニ事件/フェルディナント・フォン・シーラッハ

ついに、特に雪のないまま立春を迎えてしまい、このまま雪が降らずに冬が終わり梅雨の季節に災害級の大雨に見舞われるのか、それともたんに降雪時期がスライドしていて4月半ばまで除雪に追われる羽目になるのか、戦々恐々とする眼鏡堂書店です。

皆さん、いかがお過ごしですか?

 

さて。

そんな2月の読書会のご案内です。

今回の課題図書は、ドイツの法廷ミステリ『コリーニ事件』。

 

あらすじは、

新米弁護士のライネンは、ある殺人犯の国選弁護人になった。だが、その男に殺されたのはライネンの親友の祖父だったと判明する。知らずに引き受けたとはいえ、自分の祖父同然に思っていた人を殺した男を弁護しなければならない――。苦悩するライネンと、被害者遺族の依頼で裁判に臨む辣腕弁護士マッティンガーが法廷で繰り広げる緊迫の攻防戦。そこで明かされた事件の驚くべき背景とは。刑事事件弁護士の著者が描く圧巻の法廷劇、待望の文庫化!(Amazonより引用)

 

著者自身が刑事事件弁護士であるという略歴に加え、他作品でも”人が人を裁くとは?”や”人はなぜ罪を犯すのか”といったテーマを一貫して問う姿勢、そして彼自身の家系的な部分、など、眼鏡堂書店は非常に興味深く読みました。

なお、現時点での今年の暫定ベストです。

 

それでは、読書会の日時や場所等の紹介です。

 

【日 時】 

2月18日(日) 14:00~16:00

※2月15日(木)の17:00を締め切りとします。

 

【場 所】 

さくらんぼ東根駅前 コーヒー屋おおもり

〒999-3720 山形県東根市さくらんぼ駅前3丁目4−1

※お越しの際は、「読書会で来ました」など、お店のマスターかママさんに言ってもらえれば、会場に案内してもらえます。

 

【参加費】
コーヒー屋おおもりでの1品以上の注文をお願いします。


【定 員】
6人(※主催者含めた2名を最少開催人数とし、満たなかった場合は中止とさせていただきます)


【お申し込み方法】

以下のどれかで申し込みください。

1)コメントで参加のメッセージを。

2)openworksnovel@gmail.comに参加のメールを。

3)TwitterのDMやメッセージで。


皆様のご参加をお待ちしております。
拡散希望です。バンバン広めてください。

 

【追記】

3月以降の読書会と課題図書について変更があります。

・3月

3月24日に山形市で行われる一箱古本市に出店します。あわせて、3月は繁忙期に入るので読書会は中止します。

・4月

4月も繁忙期に入るため、読書会の開催を白紙とします。

 

既に課題図書を読まれていて参加を予定していた方がありましたら、大変申し訳ありません。どうかよろしくお願いいたします。

【眼鏡堂書店の本棚】世界の中心で愛をさけぶ/片山恭一

眼鏡堂書店の蔵書より、独断と偏見に塗れた”もっと読まれてもいい本”を紹介しつつ、全力でニッチな方向へとダッシュする【眼鏡堂書店の本棚】。

今回ご紹介するのは、残念ながら開催中止となった1月の読書会の課題図書、片山恭一の『世界の中心で愛をさけぶ』です。

世界の中心で愛をさけぶ片山恭一

言うまでもないことですが、『セカチュー』です。

2024年にセカチューとか正気か?と思われるかもしれませんが、眼鏡堂書店は正気です。たぶん。

歴代最高売り上げ321万部を誇る怪物的なヒット作。ドラマ版ではヒロインを綾瀬はるかが、映画版では長澤まさみが演じて大変話題になりました。なにより、『セカチュー現象』と呼ばれるほどに一大ブームを巻き起こしたことが知られています。

その当時、一応持ってはいたのですが結局読まずじまい。

もはやブームがあったことさえ忘却の彼方ある現在、改めて読み直そうと課題図書にしてみた次第。

 

そんなセカチューのあらすじは、

主人公は朔太郎という名の、地方都市に住む高校2年生。物語は、アキという名の同級生の恋人の死から始まる。そして生前の彼女との思い出を回想するように、ふたりの出会い、放課後のデート、恋人の墓から遺骨の一部を盗んだ祖父の哀しくユニークな話、ふたりだけの無人島への旅、そして彼女の発病・入院、病院からの脱出、そして空港での彼女の死までのストーリーが語られ、その中で朔太郎は自分の「生」の充足が、彼女との出会いから始まっていたことに気づく。アキの死から十数年が経過した今も粉状になった彼女の遺骨の一部を小さな硝子瓶に持ち続けていた朔太郎は、新たな恋人とともにアキとの思い出が詰まった郷里を訪ねる。そして「アキの死」が残したものの大きさを感じながら、ふたりがかつて一緒にいた郷里の学校のグラウンドで静かに骨を撒いた――。

 

作者の片山恭一は、86年に『気配』で文學界新人賞を受賞。

文學界新人賞といえば、野間新人賞とならぶ芥川賞への登竜門。つまり、ド直球の純文学。実際、321万部や、セカチューという単語から想像される大衆文学的な手触りは希薄。文学誌でいえば、『文學界』はもちろん、『すばる』『海燕』『文藝』あたりで連載されてそう。『群像』はちょっと違う。

古き良き純文学というか、清岡卓行池澤夏樹、なにはともあれ村上春樹あたりのあの感じ。このいい具合のノスタルジックな文学感が、妙にこの作品の世界観とマッチしていて、「あれ?思ったより悪くないぞ」という印象を抱きました。

 

眼鏡堂書店の初読の感想は、

  • 思いのほか「普通の」純文学で驚いた。
  • 深さがないので読むのは楽。
  • 映像的な「映え」がある。
  • 悪くはないが、良いかというと…。

 

たしかに、作品としての深みに欠けるのは事実。

作中で用いられる主たるモチーフをざっと列記すると、

  • 出会いと別れ
  • 戦争
  • 初恋
  • 病(白血病

それらが浅くて狭い。

ただ、それは考えようで、キミとボクの閉じた世界、この当時はやっていた「セカイ系」の狭さと浅さ。これが普遍的な一般性、つまり多くの人に訴えかける力を持っていたのでは?

なので、これを是とするか否とするかは、これを普遍性ととらえるかベタととらえるかの対立軸となるかと思います。ちなみに当時は、評論家をはじめとして「ベタ過ぎてひねりがない」「浅はか」といった否定的な意見が大半だったような気がします。

 

とはいえ、眼鏡堂書店は本作を大変な感心とともに、好意的に読みました。

単純に読みやすく、思った以上に古びておらず、作者の生真面目なまでの純文学観がけっこうよかったです。特にラストシーン。アキの遺骨を中学校のグランドにそっと撒くシーンは、主人公朔太郎の精神的な成長、というか成熟を見て取った気がします。

アキを失ったことの喪失と、朔太郎の精神的成熟。この成熟と喪失がこの本の主軸なのかもしれないなあ、と思い、もっと早く読んどけばよかったとちょっと公開しました。

 

 

何度も言いますが、「どうせセカチューだろ?」という人ほど読んだ方がいいです。

たしかに眼鏡堂書店も斜に構えて読んだのですが、胸に迫るものがありました。よかったです。100点ではないけど、75~80点はカタい作品。

 

ただ、それが321万部にはそぐわない、というのは事実。

それが編集者にとってはよかったかもしれないのですが、作者としては大迷惑だった模様。「さすがにそこまでの作品じゃねーよ」とガンガン売れていく作品を横目で見ながら「はやくこのブームが終わってほしい」と願い、最終的には「あれは私の作品ではない」という結果に。

本来なら、少数の忠実な読者に愛される作品として大事に扱われるはずだったのに、意図しない莫大な売り上げがすべてを台無しにしたような気も。

この「作者が愛せない作品」が代表作として挙げられること、はかなりキツいものが。

良い作品だが売れない、売れるけど愛せない作品。

理想と現実で揺れ動くさまは、まさに『牛肉と馬鈴薯』。

なかなか難しい問題です。

 

とはいえ、個人的に大変好意的な印象を抱いた作品でもありました。

やはり売れる作品には売れるだけの理由があるのだなあ、と感心した次第。

「アキのブラジャーにも嫉妬するオレだぜ」という文章や、朔太郎の祖父が「惚れた女のことが忘れられないから墓を盗掘してこい」という展開など、一瞬ぎょっとする箇所があり、「ああ、いまセカチューを読んでいるのだなあ」と奇妙な感慨を抱きました。編集者にケツを蹴り上げられながら、その怒りにまかせて片山先生の筆が滑ったのかと思うと、大変愉快な気持ちになってきます。

正気か?と思われるかもしれませんが、眼鏡堂書店は正気です。たぶん。

 

最後に、内容の感想やリクエスト、記事を見て本を読みました、読み返しましたなどありましたらコメント欄に書き込んでいただけるとありがたいです。あと、もし気に入っていただけたなら、読者になっていただいたり、ツイッターのフォローや、#眼鏡堂書店をつけて記事を拡散してもらえると喜びます。以上、眼鏡堂書店でした。

【参加しました】新春交流ためし読み読書会@よりみち文庫

1/20(土)に、山形市の滝山交流センターにて開催された新春交流ためし読み読書会@よりみち文庫に参加してきました。

新春ためし読み読書会@よりみち文庫

よりみち文庫で行われている読書会は少し変わっていて、自由に本を紹介する形式や、一冊の決められた課題図書をみんなで読む、といった形式ではありません。

大まかなテーマに沿った新書3冊を試し読みしていく、という形式。

新書というのはよほど興味がわかない限り手が伸びないもの。そういう意味では、強制的にそれらに触れるのは、いささか強引なものを感じますが、自分の中にある知識の幅を押し広げる後押しになるような気がしました。

ちなみに、このためし読みタイムは3回あり、眼鏡堂書店が選んだテーマと本はコチラ。

 

テーマ『現代日本文学論』

・「ニッポンの文学」

・「男流文学論」

・「文壇アイドル論」

 

テーマ『クマ問題』

・「デンデラ

・「野生動物と共存できるか」

・「クマ問題を考える」

 

テーマ『ガザを知る』

・「世界史の中のパレスチナ問題」

・「知識人とは何か?」

・「天井のない監獄 ガザの声を聞け」

 

個人的な感想としては、「ニッポンの文学」がたいへんよかった。

たとえば、シネフィルで有名なマーティン・スコセッシが、同じくシネフィルのクエンティン・タランティーノと一線をんを画すのは、スコセッシが映画だけでなく映画の歴史も愛しているというところ。実際、彼はケーブルテレビで映画史を語るチャンネルを持っている、らしい。

それと同じとは言わないけれど、眼鏡堂書店も文学を愛すると同時に、文学の歴史も愛してやまないのです。多分この辺りは、自分がヘヴィメタルファンであるのも要因かと思われ。

なので、現在までの文学の歴史や成り立ちを体系ごとに俯瞰できる本は大変ありがたい。

あと、「世界史の中のパレスチナ問題」も同様に興味深かった。イギリスの三枚舌外交に始まり、戦中戦後の「日ユ同祖論」など、かつて知識として知っていたものに再び出くわすのは大変楽しいものでした。……まあ、現在進行形の国際状況は「楽しい」などとはかけ離れているわけなのですが。

 

何はともあれ、課題図書形式の読書会を主宰する身としては、つねに選書に苦しめられるわけですが、その選書の間口を広げるための知識を蓄えるには?への後押しを頂いた気がします。

あと、単純に知らない読書会に参加するのは大変楽しいものです。

 

気に入った本を1冊プレゼント、ということで『ニッポンの文学』を頂いてまいりました。

ニッポンの文学

よりみち文庫の滝口さま、小笠原さま、大変ありがとうございました。

 

【追記】

新春ということで、本の福袋なども頂戴してきました。

中身はコチラ。

本の福袋@三浦しをん

【中止のお知らせ】『世界の中心で愛をさけぶ』片山恭一

1/21の読書会は、最少開催人数に満たなかったので中止とします。
2月の課題図書はフェルディナント・フォン・シーラッハの法廷ミステリ小説『コリーニ事件』です。日時場所等は詳細が決まり次第お知らせいたします。
 
Amazonでの2月の課題図書のリンクです。適宜ご利用ください。