眼鏡堂書店

山形県東根市を中心に、一冊の本をみんなで読む課題図書形式の読書会を開催しています。 また、眼鏡堂店主による”もっと読まれてもよい本”をブログにて紹介しています。

【参加しました】一箱古本市@山形 読書会『東京都同情塔』

4/21(日)に、山形市にある霞城セントラルにて開催された一箱古本市@山形 読書会に参加してきました。

眼鏡堂書店も課題図書形式で読書会を開催しているのですが、主催ではなく参加者として課題図書の読書会に参加するのは初。さらに言えば、今回の課題図書である『東京都同情塔』。非常にキツい作品で、全くと言っていいほど刺さってこなかった始末。

 

よく課題図書形式の読書会で言われるのが、「読書会に行ってみたいけれど、その課題図書が合わなかったらどうしよう?」

それがまさに今回の眼鏡堂書店だったわけで、一箱古本市@山形 読書会の方々にむしろ教えていただこう!という感じで参加した次第です。

いや~、ウン十年ぶりで文藝春秋を買って読みましたよ。その当時からの選考委員は、いまや山田詠美だけ。平野啓一郎島田雅彦が選考委員になっていることと併せて、隔世の感がありますな。

というわけで、眼鏡堂書店の感想をば。

そのまえに、読みながらとったノートなどを。

ノート1

最初にも書いたように、正直好みではない作品。

『最近の』小説の特徴として、文章は短く、読み手の感情や感覚にゆだねる、ところがあり、本作もその例外ではない。とはいえ、過去の読書会で取り上げた『ゴドーを待ちながら』がそうであるように、作中で書かれていないことについて問いを投げかけられても「知らんがな(´・ω・`)」という他ないわけであってね。

あと、本作の肝でもある「シンパシータワー・トウキョー」にしても、なぜ受刑者を読み返してまで同情しなければならないのか?が全くないため、そこの問題提起に意見表明を求められても、「なぜそうなったかもわからないようなものに結論を出せるか」と鼻白まずにはいられず……。

話題となった生成AIのしようについても、安部公房がいち早くワープロを使って執筆を始めた、というツール的な変容としか自分には思えず、どうにもこうにも好意的な感想が出てこない始末。

ノートもまたネガティブな記述ばっかだな。

 

というわけで、参加者によるディスカッションタイムです。

そのときとったノートを。

ノート2

全員の共通するところは、作品の核となる部分が”今”を投影しているということ。それは近年の芥川賞作品に共通するところでもあり、例えば『コンビニ人間』のシニカルな視点と通ずるところも。その一方で、『推し、燃ゆ』のように主人公が圧倒的な弱者であることと比較すれば、本作はまだまだ社会的地位の高いところにある。まあ、そのあたりは”今”を描く作品と作者の間にある差分のようなものであろうと思いました。

 

もう一つの共通点は、とても文章が整っている、ということ。

眼鏡堂書店にとっては非常にキツい作品ではあったものの、それは読みにくいことを意味しない。ただ、その整った文章というのも善し悪しというか、整いすぎていて目が滑って読みにくい、という感想も。それが生成AIによる文章とあいまって、整いすぎている文章を受け入れられない自分を発見した、という意見が印象的でした。この整い方について眼鏡堂書店は「無印良品的な」という形容を用いました。

この文章の整い方が、肉体からの乖離を彷彿とさせるという意見も、たしかに、とうなずいた次第。

そこから作中のSNSに関する表現に、自分を自由に発することのできない息苦しさ=自分のキャラ付け、へとつながり、そこに作中人物の「世界のルールに応じなければ生きていけない」生き方と、それを当然のように受け入れていることとがあいまって、眼鏡堂書店は色々な意味での”今”を垣間見た気がします。それら「言葉の行き着く果て」がこの作品の”完璧”であることの息苦しさにつながるのだという意見も。

とはいえ、エンパシー(共感)や多様性が求められる現在に、シンパシーで収めようというのはどうよ?という意見もありました。

 

眼鏡堂書店としては本作があまり好意的な作品ではなかったのですが、様々な意見を聞くにつれ、著者の次回作に何が書かれるか、そこに興味がわいてきたところです。

 

で。

 

課題図書形式に続いては、最近読んで面白かった本についての読書会。

こちらは、ダイジェスト的にざっとご紹介。

どの本も大変興味深かったです。

そして、眼鏡堂書店の紹介した本がコチラ。

(一部で)非常に人気のあるラインハルト・ハイドリヒの評伝。

海軍をクビになった青年がいかにして、ホロコーストを計画し主導し運用する地位に至ったのかが描かれています。親衛隊の諜報組織の幹部候補生募集に応募するまでナチスも知らなければ、ナチ党の党首がヒトラーであるであることも知らなかった青年が闇に染まっていく様子は、興味深くもあり、恐ろしくもあり。

彼が実行していったホロコーストアウシュビッツで最終的に生み出されようとしていたのは、ユダヤ人を原材料にした「ユダヤ石鹸」。

……一番手にもかかわらず、部屋の空気を激重にさせてしまい、申し訳なく思っております。

 

大変楽しい読書会に参加できました。

案外、読んでいてわからない、ピンとこない本だったときは、それを課題図書とした読書会に参加して、いろいろ聞いてみるというのもアリだと思った次第。

皆様大変ありがとうございました。

 

さて。

眼鏡堂書店の読書会、5月の課題図書は大江健三郎の『飼育』です。

 

日時や場所等は決まり次第お知らせしますので、もうしばらくお待ちください。

以上、眼鏡堂書店でした。