眼鏡堂書店

山形県東根市を中心に、一冊の本をみんなで読む課題図書形式の読書会を開催しています。 また、眼鏡堂店主による”もっと読まれてもよい本”をブログにて紹介しています。

【開催しました】眼鏡堂書店の読書会『高丘親王航海記』澁澤龍彦

6/16(日)に、山形市にある旧山形県庁・文翔館前にあるPlayground Cafe BOXにて、澁澤龍彦の『高丘親王航海記』を課題図書とした読書会を開催しました。

Playground Cafe BOX

お初の会場(ほかの読書会の会場として何度かお邪魔していますが)ということで事前に様々調整しての開催となりました。余談ですが、会場予約や開催までの諸々のやり取りがすべてネット上で完結するという近未来的なコミュニケーションスタイルに、戦慄を隠せない未開人でした。

『高丘親王航海記』を課題図書にした読書会は、実は二度目。

最初は募集したものの人が集まらず開催中止。

そして今回はというと、なんと満員御礼!主催者含め6名での開催と相成りました!

おめでとう、自分!

なお、気が狂った主催者は当日の読書会開催2時間前に、なぜかギターを買うという奇行に走りました。後悔はしていません。

醸し出される絶妙のパチモン感

どうです?素晴らしいでしょう?

遠くから薄眼で見れば、グレッチのホワイトファルコンにみえるでしょう?

(※見えません)

 

というわけで、今回の読書会のレポートです。

眼鏡堂書店の読書会『高丘親王航海記』澁澤龍彦

眼鏡堂書店の選書の柱に「かつて読まれていたけれど、今はあまり注目されていない本」があります。もっとも、澁澤龍彦は学校教育では扱われないにもかかわらず、『文豪ストレイドッグス』に登場するほどの高い人気を誇っています。50年代~60年代は時代の主役として活躍し、その作品群は没後30年以上を経た今でも古びません。

10年位前までは河出書房文庫にせよ文春文庫、中公文庫にはずらりと澁澤作品が並んでいたものですが、今ではなぜか本屋に並びません。なぜだか教えて偉い人。

実際、参加者の方々の全員が本作を読むのは初めて、作者の澁澤龍彦についても全く知らない人がほぼ。アニメつながりで名前は知っていても、読むのは初めてという方もいました。

そういうわけで、今回の課題図書として創作としては遺作にあたる『高丘親王航海記』を課題図書としてみました。

 

主催者以外全員が初読ということで、簡単な感想をお聞きしたところ、全員の共通するところとして「とても読みやすい作品だった」。また、作品が終わりに近づくにつれて文章が澄んでいくように感じた、という方もおりました。

よく読書会にいらっしゃる方からは、これまでの課題図書と比べて章ごとの切り替わりがはっきりしていて新鮮だった、とも。確かに、『ゴドーを待ちながら』『コリーニ事件』『飼育』と章ごとの中身が淡いような課題図書ばっかだったな、そういえば。

あわせて、地名がたくさん出てきてどういうルートで天竺に向かってるのかよくわからなかった、という感想から、なんと作品の舞台となる東南アジアの地図を持参していただきました!大変ありがとうございます!

この地図を見ながら、作品での移動ルートをみんなで確かめてみたりしました。

眼鏡堂書店はコンスタントに本作を読んでいるつもりですが、こうやってルートを確かめてみるのは実は初めて。やってみて、思った以上にルートを把握していないことがわかりました(呆然)。

何より、参加していただいた皆さんの印象に残ったのは、作品の舞台が東南アジアで、なおかつそこに出てくる動物たち。

このあたりが舞台となる文学作品というと、三島由紀夫の戯曲『癩王のテラス』くらいしか眼鏡堂書店はぱっと思い浮かびません。開高健ベトナム戦争従軍記録は、本作とは全く交錯しないしなあ……。

そして登場する動物たち。ジュゴンにアリクイ、バク。特にアリクイに至っては本作以外に登場する作品を知りません。知っている人がいたら教えてください。

そもそもアリクイは東南アジアには生息していないのですが、その理由についてアリクイ当人が語る内容が……。この強引な力技は素晴らしい!ぜひ本作を読んでください。

そんな中にあって、本作は広義の意味での時代小説&歴史小説なので、そういったジャンルでの”カタカナ使うか使わないか問題”が(個人的に)あるのですが、このおもちゃ箱をひっくり返したような作品世界が逆にそういった些末な問題を覆い隠してしまうような印象を受けました。あるいは、特有のエキゾチックさが違和感を隠してしまうというか。

あと、印象的だったのが、主人公のみこが何に対しても動じないこと。

とにかく、みこ、動じない(笑)

その動じないレベルがすさまじく、男の子が女の子になろうが、船が暴風でとんでもないところに流されようが、言葉を話すアリクイが現れようが、言葉を話すジュゴンが現れようが、自分の死期が見えようが、とにかく動じない。「天竺ではもっととんでもないことが起こるだろうから、このくらいのことでいちいち驚いていてはいけない」というのですが、それにしても動じなさすぎ(笑)

今回再読して思ったのが、こういう驚嘆を前にしても違和感なくすべてを受け入れる姿勢、それこそ澁澤龍彦その人だなあ、と。

 

その一方で、夢と現実との境がはっきりせず、天竺に向かう理由もはっきりとしないことや、そもそも話の中で場所なり記憶なりがあちこちに飛ぶ意味がよくわからない、という指摘もありました。眼鏡堂書店なりに答えられるものについては、天竺向かう理由(天竺とは何か?)については、みこにとってのぼんやりとした憧憬のごときもの。あちこち場面が飛ぶことについて何を目指しているのかについては、それぞれの場面や相和のレイヤーが無数に重なり合って形作られるミクロコスモスのようなものを作者が作ろうとしていたのでは?と答えました。剥いても剥いてもきりのない、まるで玉ねぎのようなもの。

最後、みこの魂は天竺にたどり着いたか否かについての解釈が、人によって分かれたのも印象的でした。課題図書形式の読書会で、一番刺激的な科学反応は、参加者の数だけ解釈が生まれる、というところにあると思います。眼鏡堂書店としては自分の感じていたことと逆の解釈や考え、感想が聞けるときほど、読書会をやっていてよかったと感じます。

 

最後に、参加者の方から「ほかの澁澤龍彦作品でおすすめは?」とありましたので、2冊紹介しました。

 

『フローラ逍遥』

植物を題材にしたエッセイ集。植物と文学について博覧強記の澁澤が語る内容が、軽妙洒脱でこれから澁澤作品に踏み込む人にはよろしいかと思い、紹介しました。本音で言えば、平凡社の文庫ではなく、図書館や古書店でぜひ単行本を見ていただきたい。図版と装丁の見事さはタメ息ものです。

 

『ねむり姫』

鎌倉末期の京都周辺を舞台にした、珠名姫と天竺冠者との幻想譚。ねむり続けて年を取らない姫とは対照的に兄である天竺冠者は年を取っていき……。夢と現実とが交錯し。時間さえも超越しようとする、美しくも不思議な物語。最初に買った澁澤龍彦の単行本という個人的な理由も含めて、ご紹介しました。

 

満席御礼の読書会ということで、自分は一歩引いて皆さんに語ってもらうつもりでいたのですが、好きすぎる作家であるがゆえに必要以上に前に出すぎた感があり、改めて反省しています。申し訳ありません。

ともあれ、ご参加いただいた皆様に、澁澤龍彦という作家の作品が気に入っていただけましたら何よりです。ご参加いただきまして、大変ありがとうございます。

併せて、今回会場をお貸しいただきました、Playground Cafe BOXさま。大変ありがとうございました。(『遊星からの物体X』や『ダーククリスタル』の話ができて生き返ったようでした)

 

次回、7月の読書会の課題図書は、今年が生誕100年となる安部公房。彼の作品から、通称『失踪三部作』と呼ばれるなかの1冊、『燃えつきた地図』を課題図書にします。

 

日時や場所等については、詳細が決まり次第お知らせしますのでしばしお待ちください。

最後に、内容の感想やリクエスト、記事を見て本を読みました、読み返しましたなどありましたらコメント欄に書き込んでいただけるとありがたいです。あと、もし気に入っていただけたなら、読者になっていただいたり、ツイッターのフォローや、#眼鏡堂書店をつけて記事を拡散してもらえると喜びます。以上、眼鏡堂書店でした。