眼鏡堂書店の蔵書より、独断と偏見に塗れた”もっと読まれてもいい本”を紹介しつつ、全力でニッチな方向へとダッシュする【眼鏡堂書店の本棚】。
今回ご紹介するのは、山白朝子の『エムブリヲ奇譚』です。
あらすじは、
「わすれたほうがいいことも、この世には、あるのだ」無名の温泉地を求める旅本作家の和泉蝋庵。荷物持ちとして旅に同行する耳彦は、蝋庵の悪癖ともいえる迷い癖のせいで常に災厄に見舞われている。幾度も輪廻を巡る少女や、湯煙のむこうに佇む死に別れた幼馴染み。そして“エムブリヲ”と呼ばれる哀しき胎児。(Google Booksより引用)
あらすじだけ見ると、なにやら長編シリーズもののように見える不思議。
実際は連作短編集で、和泉蝋庵の迷い癖から生じる奇譚が描かれます。
買ったのはかなり前で(実際、読書メーターにアップした際は単行本のデータが出てこず、文庫のリンクをひっぱった)、単行本の表紙デザインにひかれたのが理由。
んでもって当然のように当然のごとく積み上げて寝かせたわけですよ。
言うじゃないですか、「酒とチャンスは寝かせた方がいい」って。
誰が言ってんだ?って?そりゃ、ノブおじですよノブおじ。
まあそれはいいとして。
”ひとつ積んでは父のため、ひとつ積んでは母のため”とばかりに積ん読道を邁進していたわけですが、そろそろ読み崩さねばならぬときが訪れたので、何の気なしに手に取ってページをめくってみたら、「おやおや、思ったよりも面白いぞ」。
まあ作者が作者なので、筆が達者なのは織り込み済み。(それにしても、いくつペンネーム持ってんだよ)
作風としてはホラー、というより怪談・奇談。なんだろ?小泉八雲的な感じが一番近いかも。あわせて、科学とか未来的とかそういう要素とは異なる意味での少し不思議な超常現象が起こる、という意味でのSF。
そういう意味で、大変面白く(興味深く)読んだのは、『ラピスラズリ幻想』。
あと、『エムブリヲ奇譚』もよかった。
『地獄』『櫛を拾ってはならぬ』のグロテスクさもよい。
全体的に文章も読みやすくて余韻を持たせてくれるし、キャラクターもそれぞれ個性的で大変面白いのでオススメです。
オススメ、なんだけどねえ……。
こっからは超個人的な感想。
どの話も大変良くできていて素晴らしいのだけれど、著者と眼鏡堂書店がほぼ同世代であるせいか、話の中で仕掛けてくる展開の手の内が透けて見えるというか、着想のもとになったものが見え隠れするというか……。
たぶんそれはわざとやっているのだろうけれど、それにしてもそのあざとい感じがちょっと鼻につく印象が感じました。あくまでも、眼鏡堂書店は、ですが。
そしてなにより思うのは、文芸の世界に京極堂は一人で十分。
二人もいらないのですよ。
おそらく、暗にそういうオファーがあったのだろうと邪推したくなるんですが、それにしてもちょっと寄せすぎじゃね?と思うのですよ。憑き物落としをしなければ大丈夫、とかそういう問題ではないので。
コレ、読んだ人は結構な割合で感じると思うんですよ。
「京極堂じゃね?」って。
まあ、それを加味しても、十分面白い作品であるのは揺るぎません。
ただ、揺るがないだけに、もっとなんとかできたんじゃないか?などというないものねだりの気持ちがむくむくと。
あと、アクの強いキャラクター性も、年齢を重ねてくるとこのくらいの感じがちょうどよいのだなあ、などというぼんやりとしたあきらめというか、穏やかな気持ちに至りました。バキバキにトンガったキャラクターとか出されても、「おじさんの胃腸にそれはきびしいのよ。最近、もたれるんだ」というノーサンキューなリアクションが出てくる昨今です。
いずれにせよ、スタートラインの期待値が低かったとはいえ、思った以上に面白く読んだので、ちょっとしたら再読&持ってる続刊も読んでみようと思っているところ。
結構オススメです。
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