眼鏡堂書店

山形県東根市を中心に、一冊の本をみんなで読む課題図書形式の読書会を開催しています。 また、眼鏡堂店主による”もっと読まれてもよい本”をブログにて紹介しています。

【開催しました】眼鏡堂書店の読書会『鯨神』宇能鴻一郎

7/12に山形市にあるPlayground Cafe BOXにて、宇能鴻一郎の『鯨神』を課題図書とした読書会を開催しました。

鯨神/宇能鴻一郎

7月は芥川賞・直木賞発表の時期!というわけで、今回の課題図書は芥川賞受賞作品の中から、昨今再評価が進んでいる(?)と思われる宇能鴻一郎の作品から芥川賞を受賞した『鯨神』をセレクト。とはいえ、宇能鴻一郎といえば官能小説というワードは欠かせないわけで、参加者全員が男性であるのをいいことにその辺についても多少(良識的な範囲内で)踏み込んでみました。

官能小説と芥川賞という関係性でいえば、宇能鴻一郎以外にも6度ノミネートされた川上宗薫や、こちらは直木賞ですが『女体幻想』の富島健夫などがいます。昭和の官能小説御三家と言われた三人が、全員純文学からのスタートというのもなかなか興味深くはあります。まあ、そうはいったところでそもそもそういったものの始祖として永井荷風や谷崎潤一郎などがいるわけで。

それはともかく。

官能小説家としての宇能鴻一郎ですが、「わたし、〇〇なんです……」という告白体の文章を武器に大量の作品を執筆。松本清張が国民的作家として長者番付の一位を獲得していた時代、二位が宇能鴻一郎として莫大な印税を稼いでいた模様。作品は多くのピンク映画の原作となり、例えば『宇能鴻一郎の濡れて、打つ』などが有名です。なお本作は平成ガメラシリーズやデスノートの監督である金子修介のデビュー作として知られています。U-NEXTで見られるようなので興味のある人はどうぞ。

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官能小説の大家となる以前の純文学時代、その集大成と言えるのが本作『鯨神』。

後年の印象とは打って変わって、濡れ場も絡みも一切ナシ。

近年の芥川賞受賞作と違い、印象的な一文で始まることもなければ、AIを使っての執筆という話題性もなし。明治初頭の閉ざされた漁村でのクジラ漁の話なので、その閉鎖性というか世界の狭さにおいては『蹴りたい背中』や『推し、燃ゆ』と同等。しかし、物語のダイナミズムは比較になりません。

題材がクジラ漁なので、想起されるのはメルヴィルの『白鯨』。ただ、この物語の土着的な泥臭さが実に日本的で、ある意味での読みやすさのようなものを個人的に感じました。

他の参加者の方からは、それまで三人称から一人称になるラストが上手い、主人公のシャキが次の鯨神になるのでは?や、独特の冷めた視線や理屈のニヒリズムに味があり無常感がある、などの感想がありました。また、命を落としてしまうシャキについて最後まで生きてほしかったという感想も。

映画も見た方からは、映画は紀州とシャキの友情と鯨神をめぐる争いが軸で小説とはだいぶ雰囲気が違う、とも。

まあ、映画に関して言えばライバルキャラの紀州を演じるのは勝新太郎。そして監督はのちに『兵隊やくざ』シリーズや『必殺』シリーズを手掛ける田中徳三。脚本は新藤兼人で、音楽に至っては伊福部昭。この当時の大映はなにを狙っていたのか、っていうか明らかに鯨神が怪獣扱いなのですが?

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個人的には大変ダイナミックな作品で、読書会の課題図書という以前に作品として楽しめました。併せて、近年再評価が進んでいるからこそ、埋もれかけた宇能鴻一郎の純文学時代の作品に触れる機会を参加した皆さんと共有できたことがうれしく思います。

ただ、どうしても官能小説家としての宇能鴻一郎が切り離せないからこそ、新潮文庫のアンソロジーの収録作もそちら方向に引っ張られるきらいがあるのは残念に思います。実際、編集者の半笑い感が垣間見えるのは正直マイナス。出展元の中央文庫版はそうではなかったからこそ、新潮社にはもっと頑張ってほしかった気もします。

作中にある”人はすすんで不幸になりたがる”という一文も、人によって解釈が分かれました。これを書きすぎとしてない方がよかった、という意見が多く、個人的にシャキのニヒリスティックな部分からくる冷笑・自嘲としてとらえていたので”ない方がよい”は新鮮な意見として聞こえました。

50代後半で作家としての筆を折り、瀟洒な洋館で老執事に傅かれながら夜ごとのダンスパーティーに興じるという宇能鴻一郎の後半生は、今のご時世からすると大変に浮世離れしていてむしろ感銘を受けます。純文学作家として芥川賞を受賞したにもかかわらず、わずか10年ほどでそこから真逆ともいえる消費されることが前提の官能小説の世界へ。そのあたりのことが、こちらの本に記述されているようです。持ってはいるが読んではないのでいずれ頁を紐解いてみたいと思います。

夢十夜 双面神ヤヌスの谷崎・三島変化 | 宇能 鴻一郎 |本 | 通販 | Amazon

今回取り上げた表題作のほかにも、非常に興味深い&面白い小説が多数収録されているので、『鯨神』以外もぜひご一読いただきたいと思っています。

 

ご参加いただきました皆さま、大変ありがとうございました。

心より御礼申し上げます。

 

さて。

 

次回は開催日、場所とも未定ですが、先に課題図書を。

課題図書は『一銭五厘たちの横丁』です。

あらすじは、

戦後30年を前にした東京・台東区の下町で、著者は、戦時中に桑原甲子雄により撮られた「氏名不詳」の人びとを探して、ひたすら露地を歩き、家の戸をたたいた。そうして探し当てた彼らが語ったのは、戦場と横丁、それぞれに降りかかった「戦争」だった。写真の留守家族たち、一銭五厘のハガキで出征した横丁の兵士たちの戦中・戦後を記録したルポルタージュの名著。(Amazonより引用)

 

8月は戦争ものを取り上げよう、という感じですが、今回はその趣旨に添いつつちょっと変化球。『積ん読ざんまい』さんのポッドキャストで取り上げられていて読んだところ、なかなかに興味深かったのでぜひ皆さんと読んで語ってみたいと思い課題図書にした次第。日時場所等決まりましたらイベントページをアップしますので、しばしお待ちください。

 

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