眼鏡堂書店

山形県東根市を中心に、一冊の本をみんなで読む課題図書形式の読書会を開催しています。 また、眼鏡堂店主による”もっと読まれてもよい本”をブログにて紹介しています。

【眼鏡堂書店の本棚】海嘯/田中芳樹

眼鏡堂書店の蔵書より、独断と偏見に塗れた”もっと読まれてもいい本”を紹介しつつ、全力でニッチな方向へとダッシュする【眼鏡堂書店の本棚】。

今回紹介するのは、田中芳樹『海嘯』です。

海嘯

海嘯

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あらすじは、

中国の南半分を治めていた南宋の命運はついに尽きた。皇帝フビライの命令のもと、名将バヤンひきいる元軍が、巨大な津波となって押しよせてきたのだ。都の臨安は無血開城し、南宋は事実上、滅びた。だが、忠義をつらぬく男たちはあきらめない。幼帝を戴いて海上に逃れ、祖国再興の戦いをつづける……。巨大な敵と運命にあらがった忠臣たちの物語。(Amazonより転載)

 

田中芳樹といえば、『アルスラーン戦記』『創竜伝』『銀河英雄伝説』といったSFやファンタジーの作品で知られる作家。その一方で、中国史を描く歴史小説家としての一面があります。

歴史作家としての田中芳樹作品、その傑作のひとつが本作であると眼鏡堂書店は思っています。10数年以上ぶりで再読しましたが、タイトル通りの圧倒的な「海嘯」の圧倒的な奔流と重厚感にただただ打ちのめされました。

 

あらすじでも触れましたが、本作の内容は南宋が滅亡に至るまでの歴史を描いた作品です。世界史の授業とかでは、都である臨安府の陥落、南宋最後の抵抗としての崖山の戦いでの敗北と滅亡によって元の中華支配が完成します。

この期間はわずか四年。

滅びゆく王朝のあり様が悲壮感だけでなく、その運命に抗う登場人物たちの死に様にただただ翻弄されるように読了しました。

 

南宋の三傑はもちろん、賈似道の悪政を嫌って元軍に投降した元・南宋の将軍たち、そしてもちろんバヤンを筆頭とした元軍の将軍たち。様々な人間関係がうごめきあい、タイトル通りの海嘯のうねりのように歴史が流れていく様は圧巻の一言。

例えば司馬遼太郎であったり吉川英治であったのなら、もっと巻数が多く、そして〇〇史観的なものが挿入されたりするかもしれません。

田中芳樹歴史小説の面白いところは、そういった史観的なものを挿入することなく、大河的な重厚さを保ちながら一冊で納めてしまうのはさすが。

特にきちんと風呂敷をたたんでみせる作家としての力量の高さは『銀英伝』の作者だな、と。司馬遼太郎作品の後半によくみられるグダグダ感がないだけでも、十分に読むに値する作品だと思います。

 

南宋の末期という中国史の中ではあまり人気が高いとはいいがたい時代ではあるとはいえ、知られていないからこそ次の展開がどうなるかわからないという前向きなとらえ方もできると思います。多少ネックになりそうなのは登場人物の多さ。ただ、多いこと、というよりも、その人物が南宋と元のどちらの武将か?についてどれだけ混乱なく読めるか?というのがネックの部分。カタカナ表記が元軍の武将なのですが、南宋から現に寝返っている武将もいるので注意。とはいえ、この部分に関しては地の文で説明があるので大丈夫。たぶん。

 

ラストの崖山の戦いの悲壮さ。これは是非とも読んでいただきたく思います。

日本でいうと壇ノ浦の戦いが近しいかと。

実際、そこに着想を得て書かれた小説もあることですし。

その悲壮な戦いの後、物語を締めくくるのが陳宜中という何も決断できなかった人物、というのも歴史の無常さを表しているようで、何とも言えない余韻とともに物語が閉じられます。

物語の構成もスピード感も緩急も、どれもがちょうどよい塩梅で、なおかつ物語自体も長すぎもせず、短すぎもしない。

扱っている時代がニッチなところはあるにせよ、初めて読む中国史歴史小説としては眼鏡堂書店的にオススメしたい一冊。

三国志はメジャーかもしれないけど、吉川三国志が何冊あると思ってんだ!という風に考えると、『海嘯』くらいがちょうどよい気がします。

今のこのご時世、ぱっと読めるというのは一番重要なことではないでしょうか?

惜しむらくは、本作が中公文庫から外れてしまったっぽい、ということ。

結構な人気作品だから(?)か、中古でもあまりお目にかかりません。

まあ、図書館とかなら蔵書があると思うので、借りて読む、というのもよいでしょう。

 

最近、田中芳樹先生も病気で体調を崩された、というニュースを耳にしました。

先生の回復を祈りつつ、改めて『銀英伝』とかではない田中作品の魅力に触れる機会を得ることができて、改めてその魅力にうならされた次第。

繰り返しになりますが、眼鏡堂書店オススメの一冊です。

 

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