眼鏡堂書店の蔵書より、独断と偏見に塗れた”もっと読まれてもいい本”を紹介しつつ、全力でニッチな方向へとダッシュする【眼鏡堂書店の本棚】。
今回紹介するのは、百年に一人の逸材・棚橋弘至によるビジネス新書『棚橋弘至、社長になる プレジデントエースが描く新日本プロレスの未来』です。
あらすじは、
新日本プロレス「100年に一人の逸材」棚橋弘至、新日本プロレス社長に。2023年末の衝撃的な社長就任から1年余りを経た現在、社長・棚橋弘至はどのような日々を送り、経営者としていかなるビジョンを抱いているのか? 社長就任の知られざる舞台裏から選手兼社長としての日常、プロレスW字回復への逆転戦略、世界展開への意気込み、選手引退後のキャリア構想、そして尊敬する木谷高明オーナーとの経営問答まで、社長・棚橋弘至の頭の中が1冊で丸ごとわかる、全プロレスファン必読の仕事論にしてプロレス論!(Amazonより抜粋)
いきなりプロレスの話をしてもほとんどの方が訳が分からないと思うので、まずは棚橋弘至とは何者か?
いつもならばウィキペディア先生に助けを求めるところなのですが、幸いにしてより詳しい情報が新日本プロレスに掲載されているので、それを見ればいいじゃない。
せっかくなので、動く棚橋弘至もリンクを貼っておくぜ。
興行的にトップに至ろうかというところでのコロナ禍。どん底からの業績復活とこれからの展望。社長としての目指すべき道と、選手であり社長だからこそできることなどなど……。
本書の冒頭にもあるように、2024年10月14日での衝撃の引退宣言。2026.1.4東京ドームでの引退まで現在5か月を切った今だからこそ、読むべき一冊のような気がします。現在進行形の物語、という意味で。
ただ、プロレスファン(プロレスに詳しい人)と、そうでない人とでかなり印象や受け止め方が違うのがこの本のなかなか難しい立ち位置。
それはさておき。
コロナ禍での業績悪化を立て直す、というどん底からのスタート。そういう意味では、「疲れない、あきらめない、落ち込まない」というエース棚橋だからこそ社長を任されたのだ、と言えます。そしてそれに追い打ちをかける人気選手の相次ぐ退団。
社長就任後すぐの2024年には、オカダ・カズチカ、タマ・トンガ、タンガ・ロア、ヒクレオ、アレックス・ゴクリン、ウィル・オスプレイが退団。
全員人気選手ですが、特にオカダとオスプレイの退団は新日本プロレスにとって大ダメージ。観客動員数に大きく響くと思われました。
しかし結果は前年度比6%増。
新日本プロレスの暗黒時代をくぐり抜けてきたエース棚橋だからこそなしえたことのように思えます。プロレスはその特性上、誰かが抜ければ誰かがそこに入ってくる、という群雄割拠なところが多分にあります。絶対王者と言われたオカダやオスプレイがいなくなったことで、また新しいトップ争いが生じるという新陳代謝が生まれました。
そんななかで、会社としての新しい取り組みを次々に打ち出していく棚橋社長。
太陽のエースと呼ばれ、どこまでも明るくポジティブに進んでいく彼だからこそ、新日本プロレスの未来は明るく輝いています。まあ、具体的なビジネスモデル的なものは特にないので(いうて棚橋社長、まだ社長2年生になったばっかなので)、はたしてどこまでビジネス書としての役割を果たしてんのかどうかはわかりかねます。まあ、ほとんどが気持ちの問題、という点に終始しているのもあるし。
ただ、この本の微妙な立ち位置は、プロレスファンとそうでない人との間でとらえ方に乖離があるところ。
何も知らない人は「選手と社長両方やってるすごい人がいる!」なのだろうけど、プロレスを知ってる人からすると「ちょっと待て!」というところもしばしば。
例えば、選手兼社長という立場。
社長を役員という範囲まで広げると、今現在でも割といる。
役員という点ではドラゴンゲートのウルティモ・ドラゴン(最高顧問)、プロレスリング・ノアの丸藤正道(副社長)。
少し前ならノアは三沢光晴が選手兼社長だったし、ドラゴンゲートも18年にCIMAが選手兼社長に就任している。
わりと珍しくないといえば珍しくないし、新日本プロレスも内部の経営は木谷オーナーががっつり見ているような気がする。それは当然で、プロレスしかやってきてない人間にいきなり「団体の経営全部預けるから」はあり得ないわけで。
さらに言えば、選手の気持ちもわかる社長だからできること、というのがあるけれど、それも今ではちょっと……。本作の初出が2025年の5月なのですが、これを作っているまさにその時、10年代の新日本プロレスを支えてきた制御不能のカリスマ、内藤哲也がまさかの退団。彼の盟友であるBUSHIもともに退団するということで、プロレス界に激震が走りました。
この件で、契約更改の場に社長でありながら同席していなかったことなどが明らかになり、棚橋社長のSNSが大炎上。棚橋社長にも言い分があるのはわかるけれど、去っていく内藤が何も言わなかっただけに、圧倒的に棚橋社長が分の悪い結果に。
この内藤&BUSHIの退団の影響は非常に大きく、動員数や上半期の収益にも大きな影響を及ぼしました。特に配信の登録者数が大きく減るなど、内藤の影響の強さがうかがえます。たしかに、コロナ禍で興行が打てなかったとき、内藤率いるロスインゴ・ベルナブレス・デ・ハポン(L.I.J)のグッズ売り上げが新日本プロレスを支えたのは紛れもない事実だしねえ……。ホント、タイミングが悪かった。
海外進出の展望を語ってはいるけれど、LA道場が大変な危機に瀕しているらしいといううわさも漏れ聞こえてきて、棚橋社長が置物扱いされていないだろうか?などと不安を抱きます。
全体的にポジティブ姿勢なのはいいのだけれど、その根拠のないポジティブさが足を引っ張りませんように、と思わずにはいられません。
その一方で、アメフト選手だった辻陽太を抜擢したり、「プロレスラーを目指してます」と言った大学生が実際に入団し、ジュニアヘビー級チャンピオンになって感慨深い、など選手兼社長だからこそのエピソードも盛りだくさん。
でもねえ、後者のSHOの試合はねえ……。
SHO側の成田連の介入で失神リングアウト負けを喫した有様を「人を呼ぶ」という表現でまるっとまとめるおちゃめなデスペさん。
今現在、引退ロードを飾る棚橋社長。
ただ、にわかファンとして思うのは新日本プロレスを支えてきた選手たちが引退していったとき、彼は同じように花道を飾ってくれるのだろうか?という懸念。
良くも悪くも、自分自身にしか興味のない棚橋社長がどういう具合に感謝の気持ちを見せるのか?そこがこの本ではうかがい知れなかったのはちょっと残念。あと、巻末の木谷オーナーとの対談も雇われ社長っぽさばかりが目立つ気が。
ポジティブだけでやっていけるほど企業経営は甘くないし、「疲れない、あきらめない、落ち込まない」のは棚橋社長であって社員はそうではありません。その点はちゃんと認識しているっぽいので大丈夫だと思いますが、冷静かつ的確な経営をお願いしたいものです。
あと、厳しい言い方ですが、もっと選手を見てほしい、というのが眼鏡堂書店の気持ちです。昨年は6人の退団者を出しましたが、今年は7月時点ですでに4人。ギリ在籍しているとはいえTJPがエンパイアのメンバーと決裂してるっぽいし、予断を許しません。
来年は棚橋社長が引退し、再来年は4代目タイガーマスクが引退。ベテラン選手の中にはだいぶ危なそうな人も。若手が台頭してきているとはいいながらも、ちゃんと中堅・ベテランへのケアもよろしくお願いします。昨年今年とG1での一部選手の扱いに思うところがあります。あと、内藤の抜けた穴に自分がさっと収まるのはどうかと思いました。棚橋社長が嫌いではないのだけれど、言ってることとやってることが違うような印象を受けたり受けなかったり。
とはいえ、本自体は非常に敷居の低い本なので、入門書といったところ。
ビジネス書というよりは、初歩の初歩の自己啓発みたいな感じ。太陽のエースの明るさはメンタルが不調な時に癒してくれるような気もします。
ビジネスにも効くかどうかはわかりませんが。
プロレスラーとしての逸材だけでなく、経営者としても100年に一人の逸材になってほしいと心から願っています。
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