眼鏡堂書店

山形県東根市を中心に、一冊の本をみんなで読む課題図書形式の読書会を開催しています。 また、眼鏡堂店主による”もっと読まれてもよい本”をブログにて紹介しています。

【開催しました】眼鏡堂書店の読書会『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか』ロジャー・コーマン

2/23(日)に、山形市のPlayground Cafe BOXさんにて、ロジャー・コーマン『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか』の読書会を開催しました。
なかなかニッチな選書ではありましたが、主催者含め5名での開催となりました。
ご参加いただきました皆様、大変ありがとうございます。

今回の読書会は、はじめましての方がほとんど。そして、うち1名の方からは「本は読んでいないが、眼鏡堂書店の映画ウンチクがききたい」とのリクエストでご参加いただきました。

重ね重ね、ありがとうございます。

『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか』

Playground Cafe BOXさんからは、映画秘宝別冊と(リメイクの)『リトルショップ・オブ・ホラー』をお貸しいただきました。こちらも、ありがとうございます。

 

さて。

 

今回の課題図書は非常に長いタイトルの作品。ハリウッドが生んだ名物プロデューサー、ロジャー・コーマンの自伝。50本以上の監督作と200本以上のプロデュース作をもち、そのほとんどで赤字を出さなかったというB級映画の帝王。そして彼のもとからは続々と一流俳優や一流映画監督が巣立っていった、人呼んで「コーマン映画学校」の校長。昨年(2024年)に98歳でお亡くなりになりましたが、90歳を超えてもなお映画をプロデュースしていたという絶倫ぶり。

 

果たして、そんな彼が何を語るのか?

 

当初、眼鏡堂書店は春日太一さんによる東映京都撮影所年代記『あかんやつら』のような低予算映画の現場でのドタバタ劇のような内容を想像していたのですが、いざ読んでみるとそういう本ではありませんでした。(まあ、多少そういうところもあるにはありますが)

むしろ、「なぜ低予算映画を撮り続けたのか?」「どうやって映画業界の荒波を潜り抜けてきたのか?」「どうやってあまたの映画人を育ててきたのか?」という、一種ビジネス本的なところが多分を占めつつ、その中の個々のエピソードに笑いながら泣く、そんな本でした。

気の早いことですが、眼鏡堂書店にとって現時点での2025年ブックオブザイヤーです。

 

まず大前提として、

B級映画(低予算映画)=質の低い映画

ではない、という点。

少なくともロジャー・コーマン自身はそう思っているし、彼の手掛けた作品群は少なくとも大衆娯楽の欲求を満たす、という意味での”ちゃんとした映画”。

とはいえ低予算は低予算なので、多少の厳しさがあるのは事実。作品自体はちゃんとしてても、造形とかそういうのは何とも……。読書会で「これはちょっとねえ(笑)」と挙げられた『金星人地球を征服』に登場する、通称「金星蟹」。

金星蟹

「なんじゃこれ?」という見た目ですが、それが逆に大人気。某オークションサイトに出品されているソフトビニール人形、結構なお値段しまっせ。

 

それはさておき。

 

スタンフォード大学を卒業し20世紀フォックスで少々のキャリアを積んだのち、低予算映画の世界に足を踏み入れた男の自伝。コーマン自身が語る内容の合間に、彼とゆかりのある人物たちのインタビューが挟み込まれる形式は、参加者の方から「ドキュメンタリーを見ているようだ」との指摘がありました。

実際に、本書を(元に)作られたドキュメンタリー映画もあります。(こちらもオススメ)

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あと、まあこれは仕方ないなあ、と思ったのが、皆様コーマン映画を見たことがない。

なので、ご参加いただきました方々から、「巻末にあるフィルモグラフィーから、どんな映画か想像するのが楽しい」という感想をいただきました。

ちなみに、眼鏡堂書店は『バニシング・イン・TURBO』『殺人魚フライングキラー』『デスレース2000年』『デス・レース』『デスレース2050』を見ております。

なお、Playground Cafe BOXさんのオススメは『デスレース2000年』でした。

まるでミニ四駆を彷彿とさせるスーパーマシンの数々に興奮が止まりません。

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その『デスレース2000年』をリメイクしたのがシリーズ4作作られた『デス・レース』ですが、こちらはデスレースというより『マッドマックス』ですね。見た感じ。

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そこに来ると、コーマン師匠自らプロデュースに乗り出した『デスレース2050』は、かつてのデスレースのもつすべての魅力が確実にアップデートされていて感動すら覚えます。その一方でオスカー俳優マルコム・マクダウェルをどうやってだまして出演させたのかも気になります。

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だいぶ前段が長くなりましたが。

 

50年代から60年代にかけて既存のスタジオシステムが崩壊&テレビの台頭があり、娯楽メディアの勢力図が書き換わっていく時代。これまでのスタジオ主導の大作映画ではなく、顧客のニーズをつかみ、なおかつ新作のつるべ打ちで低予算でありながら、確実に黒字を出していくロジャー・コーマン。てっきり、自主製作映画からのスタートかと思いきや、最初から商業映画でのスタート。

どんなトラブルがあっても、絶対に撮影を止めない。作り始めたら、絶対に完成させる。理系の分析力を駆使した徹底したコストカットと計画性、文系の発想力、体育会系のリーダーシップと勢い。これは今現在必要とされる理想のリーダーではなかろうか?

そんなコーマン師匠の映画群ですが、SFマガジンを持参した方から「(このSFマガジンの映画特集で)評論の対象になっていないのはどういうことか?」との問いがありました。

それに対する眼鏡堂書店の回答が「批評家ではなく、観客に向けて作品を作り続けたから」。

10人の批評家よりも100人の観客へ。映画を見るほとんどの人は、映画のつくりよりもその映画が楽しいかどうか?に惹かれていると思います。批評家が「あれはくだらない」と言おうが、一般大衆が面白ければコーマン師匠的にはOK。

批評がどれほどよくても、お客が入らなければ何の意味もない。

そういう商売人としてある意味で割り切った姿勢がプロデューサーとしての(映画監督としても)鋭敏な感覚がうかがえます。

この大衆性というのが結構大事で、本作のタイトルにある「映画を作って10セントも損しなかった」という慧眼に繋がります。ドライブインシアターやビデオ販売やケーブルテレビなど、その時々の最も大衆の目に触れるコンテンツを巧みに選択し、そこに大衆受け(若者受け)する作品を的確に送り込む。個人的にYoutuberやその他SNS動画でバズらせようとしている人たちは、本作を隅から隅まで読むべきでしょう。

 

そんな中で、低予算映画といえば、いかに人件費を抑えるか、という問題。

過去作のカットの使いまわしや、壊すセットがもったいないから映画を撮る、など、さすがコーマン師匠と言わんばかりのコストカット対策が垣間見られるのが本作ですが、それは人件費にも及びます。

だからこそ、人件費の安い、組合に所属していない若者を積極的に起用します。

「映画を作りたい!」という若者たちは、やる気があります。なので、お金はたくさん払えないけれど、映画作りの現場をコーマン師匠は穏やか笑みとともに用意するのです。

そんなたくさんの若手の中から、一流監督、一流俳優がたくさん誕生しました。

たとえば、監督であればフランシス・フォード・コッポラマーティン・スコセッシロン・ハワードジョー・ダンテジョナサン・デミ、ピーター・ボグダノビッチ、ジェームズ・キャメロンなどなど。

俳優であればロバート・デニーロ、ジャック。ニコルソンetc。プロデューサーであれば、メナハム・ゴーラン、ゲイル・アンハードetc。

一流にはなれなかったけど、時代の荒波に飲まれることなくコンスタントに作品を作り続けている映画人を多数輩出しています。

その口から発せられるのは、コーマン師匠への感謝。

コッポラやスコセッシは「彼が私に映画を監督するチャンスをくれたことには感謝している。確かに給料は安かったけれど、そのチャンスに比べたらむしろロジャーに金を払ってもいいくらいだった」

ゲイル・アンハードは「大手で「映画を作りたい」と言ったら、「女の君が映画を作るのかい?」「お茶くみの仕事ならあるよ」「受付所の募集はしてない」と言われたわ。でもロジャーは「映画が作りたい?なら企画書を持ってまたおいで」。男女の隔てなく、彼は私を映画人として扱ってくれた」

 

ただ、その一方で、薄給でやりがい搾取する構図でもあるため、コーマン師匠にまったく感謝しない奴も現れます。

それがジェームズ・キャメロン

オレたちのキャメちゃん

『殺人魚フライングキラー』でデビューするも、本編編集の最終決定権を持たせてもらえなかったため、キャメロンの意図とは異なる編集をされてしまう。怒り狂って「元に戻せ!」とやりあうも全く相手にされず。そのため、キャメロンはこのデビュー作を「あれは私の映画ではない」とフィルモグラフィーから外す始末。

彼が「オレはエピックな映画が大好きだ。低予算の小さな映画なんて映画じゃねえんだよ!」とブチあげるのは、きっとこの苦い経験からなのかもしれません。

知らんけど。

 

さらにロジャー・コーマンの功罪が入り混じるのは、海外作品の配給。

会社が大きくなったことで、優れた芸術作品を大衆に届けよう、という試みを取るコーマン師匠。この試みは功を奏し、黒澤明の『デルス・ウザーラ』はアカデミー外国語映画賞を受賞するに至りました。

その一方で、作品を都合よく勝手に編集することもあり、『日本沈没』を編集&カットでもって、アメリカが大災害に打ち勝つ、という内容に改変したり、『風の谷のナウシカ』のストーリーラインを編集で大幅にいじってみたり、なかなか両手を挙げてほめるわけにもいかないのが、やっぱ商売人。

 

海外作品の配給で利益が上がり、その伝票や帳簿を整理しながら「こんなことをするために俺は社長になったのか?これがおれがやりたかったことなのか?」と我に返ったコーマン師匠が、会社を手放し、再び映画製作の最前線に復帰するくだり。やっぱこの人は映画が好きなんだなあ、と思った次第。

その矜持がうかがえる終わりの部分、16章と17章。

進路を控えた、高校生や大学生にこれはぜひとも読んでほしいと思います。

もちろん、そのほかの方々にも。

 

個人的にコーマン師匠の誠実さを表しているのが、タイトルに「10セントも損をしなかったか」と銘打ちながら、本作の中で3本赤字を出した作品があることへの言及。

それが『侵入者』『ガス!』『コックファイター』。

リベラルに振りすぎた『侵入者』『ガス!』。新しいマーケットを目指したつもりがそこにはお客がいなかった『コックファイター』。

失敗も包み隠さず、そしてその原因をきちんと分析するコーマン師匠。

こういうところも、ただの成功者の本、ではないことがこの作品の魅力です。

 

けっこう厚い本なのでなかなか手を出しづらい雰囲気はありますが、これは絶対にオススメです。

参加者の方からもありましたが、映画のことが分からなくても十分楽しめます。

あわせて、何かをやってみたいと思っている人、何かを作っている人、そういう方は間違いなく読むべき一冊。

ただ単純に面白いだけでなく、ある意味ビジネス書としても有意義な内容がたくさん盛り込まれていますので、オススメです。

繰り返しになりますが、眼鏡堂書店にとってのブックオブザイヤー2025です。(気が早い)

 

さて、今後の予定についてのお知らせです。

3月は、3/23(日)に山形駅西口広場で開催される「一箱古本市@山形」への出店のため、読書会はお休みです。

4月は、仕事の繁忙期と重なるため、読書会の開催は未定です。

 

最後に、内容の感想やリクエスト、記事を見て本を読みました、読み返しましたなどありましたらコメント欄に書き込んでいただけるとありがたいです。あと、もし気に入っていただけたなら、読者になっていただいたり、ツイッターのフォローや、#眼鏡堂書店をつけて記事を拡散してもらえると喜びます。以上、眼鏡堂書店でした。