7/21(日)に、さくらんぼ東根駅前のコーヒー屋おおもりにて、安部公房の『燃えつきた地図』を課題図書にした読書会を開催しました。
おりしも今年は安部公房生誕100年!
乗るしかない!このビッグウェーブに!
とはいえ、『箱男』や『砂の女』はみんなチョイスするだろうから、という理由で眼鏡堂書店では通称・失踪三部*1作と呼ばれる作品群の中から、『燃えつきた地図』をチョイス。
過去、『方舟さくら丸』を課題図書にした読書会を開催しようとしたところ、応募はゼロ。果たして今回は?と心配していましたが、なんとなんと前回に引き続き満席御礼の主催者含め6名参加となりました。
ありがとうございます!
なお、6人全員が眼鏡着用という6人制眼鏡タッグマッチでのバトルロワイアルです。
うち一人の若者に至っては山形市から東根市まで自転車で来たとのこと。
若いってすげえな、と思いました。(小並感)
あと、余談ですが、前日はお世話になっている山形読書会の100回記念の読書会。
所用で行けなかったため、メッセージなぞを送り付けさせていただきました。
また、併せて、『元気をくれる本』というテーマで本を紹介せよ、というお題もいただいたので。コレを紹介しました。
最近、コレから多大なる元気をもらっております。わかる人だけわかればいいです。
現在進行形で行われている(※7/22現在)G1クライマックスも楽しみでたまりません!
というわけで、今回の読書会のレポートです。
レポートなのですが、本の集合写真を撮り忘れてしまったので、代わりに眼鏡堂書店が注文した「わたあめクリームソーダ」の写真をば。
どうです?この映えっぷり。なかなかにお高い撮れ高でしょう?
ということで、改めて今回の読書会のレポートです。
『燃えつきた地図』は失踪した依頼人の夫を探す三日間の物語。とはいえ、まるでカフカの『城』を思わせるような、一向に目的にたどり着けずその周囲をぐるぐる回り続け迷路の中をさまようような話。
6人中5人が何らかの安部公房作品を読んだことがあるということだったので、まずはそのようなところから。ほぼ全員が読んでいるのは『砂の女』。そして『箱男』。確かにそのあたりが代表作だから、というのがありつつ、主催者としては今回の課題図書がそれらのような突飛なものが一切出てこないところが印象的に感じたところ。半面、独特かつ多用される比喩表現には、久しぶりの安部公房ということもあり、少々苦戦。
併せて、ミステリ苦手勢としては、このミステリ(的)な物語構造が……。
というところに、参加者の方から幾度かの指摘であったのが、主人公はあくまでも興信所の職員であって探偵ではない、ということ。
なので、彼がやらなければならないのは、
・失踪した根室さんはどこにいるのか?
であって、
・なぜ根室さんは失踪したのか?
というなどを解くことではない。
加えて、なぜこの小説が難しく感じるのかについて、
・モノローグの存在
・報告書の存在
・時間の記述がはっきりしない
の3点を挙げてもらいました。それで思ったのが、例えばガントチャートや、横軸を時間軸とした年次計画表的な表で作中の出来事を整理すると格段にわかりやすくなるような気がしました。
そのほかの意見として、安部公房作品の再現性について。
とにかく、「こういうことがあった」的な再現性の高さは、安部公房作品ならでは。都会の裏側の匂ってくるような汚さや、自分もそうなって今うのではないかという行方不明者についての描写など。50年も前に発表された作品にもかかわらず、(ごくごく一部を除いて)全く古びない、というか体験していないにもかかわらず「こういうことがあった」と自分の内面から想起させられる感じは安部公房の魅力の一つといえるかもしれません。
また時代性の指摘も。有象無象の若者たちであふれた60年代の時代性を、流動性のあるものとしてとらえた場合、この都会の流動性は『砂の女』における砂の流動性との間に共通点が見えるのではないか?とあり、若者、すげえな、と思いました。
全体としては「自分」を探す物語としてとらえると、最初の車でのシーンが最後は徒歩になるなど、物語のループ構造の指摘がありました。
そしてなにより、一番の謎がラスト。
最後にさまよっているのは、いったい誰なんだ?という疑問。人称が「だれか」について書かれていないので、主催者は探すものと負うものが同一化した、ととらえていたのですが、文庫版解説でドナルド・キーンはそれこそが探す対象である根室であると指摘、ある参加者の方からは弟ではないか?と。また別の方からは、視点が一人称でありその人しか知りえない情報を考えるとこれはウェイトレスなのではないか?とありました。
加えて、この最後の部分については、村上春樹の『ノルウェイの森』が影響を受けているのではないか?とも。
また現代作家で安部公房の影響下にある人は?というクエスチョンを向けられたので、あくまでも印象論ですがと前置き(逃げました)、主催者は円城塔や諏訪哲史を挙げてみました。
最後に、本作が初安部公房という方がいらしたので、「2冊目にオススメは?」という話題。多く名前が挙がったのが、『第四間氷期』
ちなみに眼鏡堂書店は、朝起きたら脛からカイワレ大根が生えていた描写から始まる『カンガルーノート』です。
参加いただきました皆様、会場をお貸しいただきましたコーヒー屋おおもりのマスター&ママさん&はるなちゃん、大変ありがとうございました。
次回、8月の読書会は、アカデミー賞受賞作品として話題となった映画の原作本、マーティン・エイミスの『関心領域』を課題図書とします。
日時や場所等については、詳細が決まり次第お知らせしますのでしばしお待ちください。
また、以降の課題図書についてもご紹介します。
9月 『今夜、すべてのバーで』中島らも
10月 地元を舞台にした本&地元について書かれた本
最後に、内容の感想やリクエスト、記事を見て本を読みました、読み返しましたなどありましたらコメント欄に書き込んでいただけるとありがたいです。あと、もし気に入っていただけたなら、読者になっていただいたり、ツイッターのフォローや、#眼鏡堂書店をつけて記事を拡散してもらえると喜びます。以上、眼鏡堂書店でした。