眼鏡堂書店

山形県東根市を中心に、一冊の本をみんなで読む課題図書形式の読書会を開催しています。 また、眼鏡堂店主による”もっと読まれてもよい本”をブログにて紹介しています。

【眼鏡堂書店の本棚】死の貝 日本住血吸虫症との闘い/小林照幸

眼鏡堂書店の蔵書より、独断と偏見に塗れた”もっと読まれてもいい本”を紹介しつつ、全力でニッチな方向へとダッシュする【眼鏡堂書店の本棚】。

今回ご紹介するのは、Wikipedia3大文学から小林照幸の『死の貝 日本住血吸虫症との闘い』です。

 

死の貝 日本住血吸虫症との闘い/小林照幸



どちらかといえば、というよりも圧倒的に小説が多い「眼鏡堂書店の本棚」において珍しくノンフィクションからのチョイスでございます。

Wikipedia3大文学の残りふたつ、熊と雪山遭難はひとまず得意な方々に任せるとして、

せっかくだから眼鏡堂書店はみんな大好き風土病を選ぶぜ!

 

さて、本作のあらすじは、

腹に水がたまって妊婦のように膨らみ、やがて動けなくなって死に至る――
古来より日本各地で発生した「謎の病」。原因も治療法も分からず、発症したらなす術もない。その地に嫁ぐときは「棺桶を背負って行け」といわれるほどだった。
この病に立ち向かうため、何人もの医師や住民たちが奮闘を始める。そして未知の寄生虫が原因ではないかと疑われ始め……。のちに「日本住血吸虫症」と呼ばれる病気との百年以上にわたる闘いを記録した歴史的名著。(Amazonより抜粋引用)

 

ある特定の地域での未発症する奇病。この病の克服に当たったたくさんの人々の年代記、というのが本書。

冒頭、そもそもこの致死率の高い奇病がなぜ発症するのかわからない、というところから話は始まります。いったい、何が原因なのか?そもそも、この病は何なのか?

人によっては、「そっからかよ!」と思うかもしれませんが、とにかくこの「そこから」を解き明かすだけでも大変な歩み。細菌なのか、何か風土的なものなのか、それとも…。それを解き明かすために、自分自身の解剖を願い出る女性が現れ、話はたくさんの犠牲のもとに少しずつ真相へと近づいていきます。

それは寄生虫によるものであることがわかると、話は次の段階へ。

なら、この寄生虫はどこから人体へと入ってくるのか?そして、何を媒介にしているのか?

一つの謎が解決すると、また次の謎が。

ノンフィクションとはいえ、このあたりはまるでミステリ小説を読んでいるかのよう。そして、その解決のためにたくさんの人がかかわり、また、たくさんの命が失われ。

最終的に、この病の原因となる寄生虫を媒介しているのは宮入貝という小さな貝であることが判明。

日本住血吸虫症の治療薬の開発とともに、この貝の根絶が行われます。

石灰の散布、川のコンクリート側溝化、埋め立てなどなど。

山梨ではこれによる農業政策転換で、米から桃や葡萄という果樹農業へと転換していったのは、初めて知りました。学校教育では「機構が栽培に適しているから」というざっくりした話だったような気が。

ともあれ、(ほぼ)根絶されたから万事OK!ではなく、そもそも宮入貝には何の罪もなかったわけで、その環境を激変させてしまった(自然を人工的に作り変えてしまったのは)果たして正しい選択といえるのだろうか?という一抹のむなしさじみたものへと結ばれます。

考えてみれば、日本住血吸虫症も宮入貝も自然の一部。根絶も見方を変えれば人間側のわがままといえなくもない。人間の生活とあるがままの自然、そのどちらも成り立たせるのはなかなか難しい。まして、そこに命がかかっているだけに。

豊かな自然を求めれば、根絶してきた日本住血吸虫症との歴史を逆にたどってしまうことになるわけで。

はたして、これは正しかったのか?自然との共存が声高に叫ばれる昨今だからこその問いかけは、単純な克服物語に終始せず、もっと大きな命題を考えさせるものと感じました。

 

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