眼鏡堂書店の蔵書より、独断と偏見に塗れた”もっと読まれてもいい本”を紹介しつつ、全力でニッチな方向へとダッシュする【眼鏡堂書店の本棚】。
今回ご紹介するのは、6/16の『高丘親王航海記』読書会にてご紹介した、澁澤龍彦の『フローラ逍遥』です。

本作は植物をめぐるエッセイ集。ひとつひとつがさほど長くなく、澁澤龍彦初心者にはわりとハードル低めで手に取りやすい一冊ではなかろうか、と思います。
現在出版されている平凡社ライブラリーでの作品解説によると、
水仙、コスモス、薔薇など著者が愛する25の花々を豊富なエピソードとともに描く、最晩年の名エッセイ。東西の代表的な植物画75点をオールカラーで収録、目にも愉しい一冊。
まさにその通り。実際、このオールカラーの植物画の美しさが、軽妙洒脱かつ衒学的な澁澤龍彦の筆致と相まって、常に手元に置いておきたい魅力にあふれています。
あふれているのです、が。
ここから先は、眼鏡堂書店の自慢タイムです。
この『フローラ逍遥』、もし可能であれば古書店や、ネットでの取り扱い、図書館などなど、ぜひ単行本で手に取っていただきたいのです!

文庫でもオールカラーで収録されている植物画。
これが単行本ともなると破壊力が違います。文庫は文庫で素晴らしいのですが(常に持ち運べるという意味で)、本来の収録サイズと比較すべくもありません。
どうです?素晴らしいでしょう?(自慢)



最晩年のエッセイ集の一つであり、正直、かつての澁澤龍彦の切れ味鋭い闇の部分というのは皆無と言ってよいのですが、逆にそれが彼の肩ひじ張ることのないリラックスした文章に現れていて、好きな一節をぱらぱらとページを手繰るにはもってこいです。
古今東西のあらゆる知識に精通しているというか、今ならネットで検索しながら編むような文章も、この当時はほんと頭に蓄えた知識がすべて。それらをまるで手品のように取り出して読者の目の前に提示してくるのはさすがです。
梅の花の白さを形容する言葉、的皪。
プランタジネット朝の語源ともなった、プランタゲニスタこと金雀枝。
トネリコの木。
苧環の花。
香りのしない椿の花。
昭和の子供を象徴するチューリップ。
『高丘親王航海記』読書会でも言った気がするのですが、澁澤龍彦は業績としてはすでに後進に乗り越えられた作家です。
にもかかわらず、今なおこうして新たな読者を生み出し続けるのは、その文章が彼自身の手によって編まれたものであるところにあると思います。その文章を読むだけで、澁澤龍彦であることがわかる、というような。
個人的には、いま、自分は澁澤龍彦が書いた文章を読んでいる、ということそのものが魅力のすべてのようにも感じています。
自身の筆致に頼ることなく、生成AIに文章を書かせて恥じることのない作品が文学賞を獲るような昨今であればこそ(ちょっと言い過ぎ)、澁澤龍彦が書いた文章である、というたったひとつの魅力がより強く、そして芳しい魅力として感じるようにも思えます。
もっとも、それは澁澤作品だけでなく、それぞれの皆さんが大事にしている作家なり作品についても同じことが言えるのかもしれませんが。
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