8/21(日)に、さくらんぼ東根駅前のコーヒー屋おおもりにて読書会を開催しました。
ご参加いただきました皆様、そしておおもりのマスター&ママさんありがとうございます。
今回の課題図書は『出発は遂に訪れず』島尾敏雄。
時節柄、8月は日本人が最も”戦争”というものを意識する時期であると同時に、世界情勢では現在進行形で戦争が続いています。だからというわけではないのですが、あえてこの時期に戦争文学、それも非常に特異な戦争体験をつづったこの課題図書を読み、様々な意見や感想を聞いてみたくなったのでした。
あと、終戦に至るまでの3日間の歴史の流れや、島尾の配属された加計呂麻島の場所、乗り込んだ特攻兵器『震洋』の概要、あと軍隊内の階級について、個人的にわかりにくいと感じたので、勝手に資料を作って皆様に配りました。
軍隊内での下士官と一般兵との違いがわかると、他の戦争文学もずっと理解しやすくなると思います。その点で、非常に優れた資料だと思います(自画自賛)
さて。
参加者のみなさまからの感想としては、やはり作者島尾敏雄の特異な戦争体験に注目が集まりました。
8月13日から始まり15日で終わる3日間をつづった物語なのですが、そこにあるのは特攻。13日に出撃命令が下り、出発を待つその3日間。死を前にして足止めされる滑稽さと焦燥は、非常に収まりの悪さと何とも言えない感情が生み出されます。
前段の物語となる『魚雷艇学生』での訓練以来1年半、死ぬためだけに過ぎてゆく日々が日本の無条件降伏によって突然尻切れトンボのように終わる。
主催者として読書会の中で言ったのは、「一番悪い(間違った)読後の感想として、「ああ特攻で死なずに済んだ、良かった」という安堵感から爆薬の信管を抜いて眠りに落ちた、という感想ではないか?」
あと、のちの作品(『死の棘』)を踏まえたうえで、死を前にしての恋愛の業の深さや、恋愛ほど強い感情はないのではないか?という感想もいただきました。
併せて、大岡正平の『野火』や大西巨人の『神聖喜劇』といった一般兵士の視点から見た戦争は多々あるが、本作のように部隊を指揮する立場での戦争文学はあまり見たことがなく新鮮な感じがした、ともありました。
また、文章については今の作家と比べて非常に修飾の多い文章で戸惑ったが、かといって読みにくいわけではなく「文章がうまい人だなあ」という感想もありました。
あとはなんといっても、作中で”トエ”と表記される、のちに結婚するミホさんとの恋愛と『死の棘』の顛末、そして東京を捨てて奄美に戻るまでの話も盛り上がりました。
(『狂うひと :「死の棘」の妻・島尾ミホ』 を持参いただきました女将、ありがとうございます)
会場をお貸しいただきましたおおもりのマスター&ママさん、そしてご参加いただきました皆様、大変ありがとうございました。
次回は、
日時 9/18(日) 14:00〜16:00
場所 コーヒー屋おおもり
課題図書 『方舟さくら丸』安部公房
です。
開催日の約2週間前にお知らせをアップいたしますので、皆様のご参加をお待ちしてます。
【追記】
島尾敏雄が妻への絶対服従を誓った手紙は、読めば読むほどじわじわくるものがある。
ちなみに、作家によるこのテの手紙を見たのは島尾で二人目です。