眼鏡堂書店

山形県東根市を中心に、一冊の本をみんなで読む課題図書形式の読書会を開催しています。 また、眼鏡堂店主による”もっと読まれてもよい本”をブログにて紹介しています。

【開催しました】『川端康成★総選挙』

5/15に山形市のイベントスペースN-GATEにて、『川端康成★総選挙』と題した読書会を行いました。



今年は文豪川端康成の没後50年ということもあり、全ての川端康成作品(関連作品を含む)を対象というニッチ&イレギュラーな読書会でしたが、主催者含め3名の参加者があり無事に会を開くことができました。大変ありがとうございます。

川端康成といえば『伊豆の踊子』『雪国』が代表作なのですが、さすがはニッチで知られる眼鏡堂書店の読書会。参加者全員が持ってきたのが本流から外れた異端の傑作『眠れる美女』と『片腕』(笑)

ということで、基本的にこの2作品を中心に読書会を進めていきました。

眠れる美女』は性的機能を失いつつある老人が眠っている少女と添い寝をする、という谷崎潤一郎チックな作品。とはいえこの作品、大変よくできている反面、本流の川端作品から逸脱しているがゆえに、”代筆疑惑”が持ち上がっている作品でもあります。ちなみに、代筆した(といわれている)のは三島由紀夫。言われてみると、たしかに三島っぽいところがチラホラ。読書会では、作品のある個所について強烈に三島っぽい文章があったので、そこをご紹介しました。

ただ、この代筆疑惑の真偽をややこしくするのが、川端康成が文体模倣(パスティーシュ)に非常にたけた人だ、ということ。弔辞の名人と呼ばれ、文人や文化人が亡くなると川端が弔辞を読むのが通例だった時期がありました。その際の弔文ではなくなった相手にふさわしい長文を読むわけなのですが、その文章が故人の文章を模倣しつつそこに自分の個性も加味するという離れ業をやってのける。

こういう人なので、三島っぽい文章を書け、と言われたとしてそれが当人以上に三島っぽく書くことができるというあたりに、問題の深さとややこしさがあるようです。

それはさておき。

参加者の方からは「最近の小説と比べて、一区切りが長く会話のテンポもゆっくりしていて、最初は戸惑った」というご意見が。

言われてみれば、最近の小説は一文一文が短く、会話にしても短いセリフがテンポよくポンポン並ぶ印象。それに比べて、この当時の小説はとにかくみっちりと詰まっている感じ。まあ、どっちが良くてどっちがダメという話ではないのですが。

話を『眠れる美女』に戻します。

性的機能を失いつつある老人が深く眠った少女と添い寝する、という話の筋なのですが、作品が書かれたときの川端康成は60歳。主催者としては男として枯れるがはやすぎやしないだろうか?と思ったところ。だって、ミック・ジャガーリッチー・ブラックモアクリント・イーストウッドもバリバリ現役で子供を作っているわけで、という話をしましたが、これは完全に比較対象を間違えています。

ほかにも、参加者の方から「作者が男性だからか、相手の少女の外見ばかりが描かれていて、内面が全く描かれていない」という指摘が。

たしかに、これは『眠れる美女』だけでなく『片腕』にも共通するところ。

眠れる美女』を激賞した作家の中に澁澤龍彦がいるのですが、彼は著書『少女コレクション序説』のなかで、「物言わず、自我を持たない美しい少女は最高の鑑賞物である」というようなことを書いています。それが川端康成も同様かどうかは……。

この話題から、話は脱線。

結婚やお見合いの話へ。まあ、これは主催者も結構プライベートなことを話したのでここでは割愛。なかなか深みのある話となりました。

 

『片腕』についてもフェティッシュな部分が多々。ただ、女性が右腕を外して託される、という。書き方によればもっとおどろおどろしくも書けるだろうけど、非常にきちんとした書き方。『眠れる美女』も同様で、フェティッシュにもかかわらず非常に清潔感があるのが、川端康成の腕前というところでしょうか?

時代的に、シュルレアリスム(超現実主義)が存在するとはいえ、明治生まれのおじいちゃん作家が書く内容ではない、というのが驚くべきところ。ちなみに、もっと突っ込んだ言い方をするなら『片腕』はむしろマジックリアリズム。ちなみに、この時期、マジックリアリズムは南米で誕生したばかりくらいだと思ったので、より一層驚愕です。

 

なお、他作品として主催者は『古都』を読んできたのですが、途中で挫折。

挫折理由は、一言。「つまらなかった」

睡眠薬を乱用して書いた作品の割には、むしろ明晰すぎて拍子抜けしたのが、つまらない、という印象につながったのではないかと思われ。

 

さて、次回なのですが、

日時は6/19(日)14:00~16:00、場所は東根市さくらんぼ駅前のコーヒー屋おおもり。

課題図書は、かつて教科書にも載っていたという名エッセイ、『父の帽子』森茉莉です。

 

読書会にご参加いただきました皆様、大変ありがとうございました。
まだのご参加をお待ちしております